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「カンボジア クロマートラベルガイドブック」
特集
Vol.1 Oct - Dec 2006
特集1 いつか見た映画のような旅
     〜トム・テューウトンレサップクルーズ〜

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いつか見た映画のような旅
〜トム・テューユトンレサップクルーズ〜




東南アジア最大の湖であり雨季と乾季ではカンボジアを占める面積を大きく変化させ、人々の生活を大きくサポートする天然の湖“トンレサップ湖”。通常、カンボジアでトンレサップ湖クルーズと言えば観光の町シェムリアップから近くの水上生活者の生活を垣間見る2時間程のクルーズを指す。このクルーズに新しい風を呼び込んだのが「トム・テューウ」。スタイリッシュで豪華な船に乗り、シェムリップ-プノンペン間の通常6時間で到着する距離をたっぷりと2泊3日かけ、素のカンボジアを探求する新しいスタイルのクルーズ。

 旅のテーマであり、主役となるのが「水、自然、生活」。観光の街とビジネス・行政の街の間に大きく横たわる湖、途中点在する未開の地コンポンロン、コンポンチュナン、コンポントラッチ、古都ウドンに広がる緑の地、またそれらの恩恵を受ける人々である。

 少し違ったハイスタンダードな船上生活と、ひとたび陸地に降りると感じる、いつか見た映画のような光景、素朴なカンボジアのとのギャップを肌で感じることのできるすばらしい旅に出発。
 今回、日本人初となる体験クルーズ・シェムリアップ〜プノンペンまでの行程と体験談を書す。



― 参加日前日・水曜日 シェムリアップ
 夕方、めったに鳴らない事が自慢の携帯が騒ぎだし、スイッチを押すと同時に聞こえてきた落ち着いた太い声。少しばかり訛ってはいるが流暢な英語で明日の集合場所と時間を僕に伝えた。


― 参加初日目・木曜日 シェムリアップ − コンポンロン
 伝えられた時間である午前7時に間に合うように、伝えられた場所である川沿いのとあるカフェに向かう。白い制服に身を包んだフランス人船長が現れ、眠気を払うような挨拶を交わした。今回の参加者は僕を含め全員で10名だそうだ。ぽつりぽつりと今回の参加者らしき、西洋人の姿が見られた。小学生ぐらいの2人の子供を連れた夫婦、3姉妹のように仲が良い親娘、そして10分位遅れて最後に現れたカップル。どうもハネムーンらしい。さあ、全員そろった。2台に分かれてバンに乗り、20分ほど南に向かった地点にあるトンレサップ湖ボート乗り場に到着。小型ボートで水位が深いところに停めてある今回の旅仲間であるトム・テューウ号に向かい、乗船。

 乗船後、船長とその愉快な仲間からの歓迎スピーチと船上での注意事項の説明を受ける。その後、約4時間のんびりと自由に過ごした。行けど暮らせど360度見渡す限り水であり、水平線が見える。ちなみに、湖の水は常にコーヒー牛乳のような褐色で子供の頃の給食を思い出す。のんびりとサンデッキで寝転がっていると、心地よい鐘の音色が船上に鳴り響いた。どうもランチタイムらしい。乗船者全員で一緒に食事するのが船上での決まり事らしく、一人と欠くことなくセミオープンのダイニングルームでカンボジア料理を頬張る。テーブルの上ではフランス語と英語が飛び交い、気さくなフランス人船長の軽いジョークに場は盛り上がる。イタリアで弁護士をしている新婚カップル、多忙な旦那を置いてきたフランス人親娘3人、南方のフランス領の島から来たという西洋系ファミリーと少しずつ打ち解けてきた。

 3時を少しまわった頃に第一の目的地であり、今日のメインであるコンポンロンに到着。ライフジャケットを装着し、いそいそと小型ボートに乗り換えた。ベトナム人が多く住むという水上生活者の村を見学、竹とトタンで造られた小さな小屋の中ではハンモックが揺れている。水上で生活している人々はどことなくのんびりしている。家の下には蛋白源が群れをなして泳いでおり、ひとたび投網をすれば今晩の食事には困らないからだろう。ゆっくりとボートを進めると、手漕ぎボートに山盛りのフルーツや野菜を載せている船上のお店、ちょうど授業が終わり、白と青の制服姿で楽しそうに手を振る水上小学校の子供達、他にも水上教会、水上パゴダ、水上ガソリンスタンドなどをゆっくりと見て廻った。途中水上生活者の家を訪問し、ぼこぼこのやかんで沸かしたお茶を一杯頂き、片言の英語で世間話を楽しんだ。

 その後トム・テューウ号に戻り湖をさらに南下する。360℃見渡せていたトンレサップ湖から両岸が見えるトンレサップ河へと流れ込む。落ちていく夕日とのコントラストがすばらしい。周りが見渡せないほど暗くなった時点でボートは停止、船長からのウェルカムドリンクをサービスしてもらい、皆でディナーを開始する。ほんの今朝会ったばかりで1日も経過していないが、アットホームな雰囲気が船上を包み込む。おいしい赤ワインのおかげか話は尽きることなく夜は更けていった。


― 2日目・金曜日 午前 コンポンチュナン 
 朝6時。カンボジアの空の色が変化し始め、船が静かに動き出す。映画だと鳥のさえずりや鳴き声で目を覚ますはずだが、現実はそうでなかった。少し残念だ。8時を少し回った頃、食の鐘が鳴りだした。寝ぼけ眼で少しずつみんなが集まり、朝食開始。昨晩少し飲み過ぎたのかみんな少し口数が少ない。9時頃には陶器で有名な村・コンポンチュナンに到着。川沿いの忙しそうな喧騒を横目に見ながら、用意されていたバンに乗り換え近くの村へ向かう。途中15人位だがお坊さんの行列が托鉢をしている様子を目にした。いつかラオス・ルアンパパーンで見た光景と同じだ。もしかしたらこの街には同じ習慣があるのではないか・・。

 10分程舗装されていない道を走ると村に到着。徒歩でゆっくりと村を歩き、目に付いた民家を訪問、船長が住人と何か話したと思うと、すぐに陶器を作り始め出し、10分も経過したかしないかで一つの壺が完成していた。これを3日間日干すと完成し一つが1000リエル(約30円)で売れるのだと言う。その後、ものめずらしさからか集まってきた子供たちを先頭に、やし砂糖を作っている民家や、現地女性と結婚している日本人宅を訪問。この氏には逸話があり、以前この村が「世界ウルルン滞在記」で放送された時に、番組に登場した女性・通称ピーちゃんに一目惚れをしてしまい、はるばる日本から現在の奥さんであるピーちゃん宅へ訪れたという“押し入り婿”であった。

 再びバンに乗り一路コンポンチュナンの町へ。2kmに及ぶローカルストリートマーケットを散策。外国人をあまり見たことない人々が、すれ違うたびに「ハロー」と声をかけてくれる。恥ずかしがり屋さんの子供は精一杯声を震わせ一声を発したと思うと、一目散に逃げ出す。外国人に対して屈託なく、カンボジア語で話しかけて商いをしようとするおばあちゃんもいる。みんな外国人が好きで好きで仕方がないらしい。船に戻り次の目的地に向かう間にゆっくりとした昼食をとる。今日のメニューは湖で獲れたばかりの50cmを超す雷魚をホイル蒸ししたものにレモンと胡椒をかけたものだ。淡水魚の割に思ったより、臭みもなくさっぱりしていた。


 ― 2日目・金曜日 午後 コンポントラッチ
 ほんの少し雨が降った為か快晴の空に虹がかかっている。午後3時半を少し過ぎた時にコンポントラッチに到着した。ここにはポルポト時代に破壊を免れた古いお寺がある。船を降りると10台の牛車が僕たちを待ち構えていた。カンボジアの牛車は1台の台車を引くのに2頭の牛を使う。牛が農耕だけでなく人々の支えになっており、1頭できつい作業をさせずに2頭使うことで少しでも負担を軽減させるための配慮である。カポンカポンとやや小走りで走り出す牛車、のんびりと田植えをしている人々を横目に見ながらお寺へ向かう。外国人に気付いた子供たちが後ろから手を振りながら追っかけてきて牛車に一緒に乗りちょこんと座る。片道約20分間のローカル体験だ。お寺に到着した。屋内中にペイントされ、剥がれかかりながらもどうにか残っている仏陀の一生を表した壁画を見た。

 この旅、最後のサンセットをデッキで楽しんだ。隣にはイタリア人新婚カップルが談笑しながらキスをしていた。一人身の僕には少しうらやましかった。夕日が落ちると船長が「この旅もまた無事だった、最後の夜を楽しもう」と言い、ワインを開けた。まだ2日目なのだが、なんとなくもう1週間位一緒にいたような錯覚を起こしながらみんなでディナーを楽しんだ。


― 最終日・土曜日 コチャン − ウドン − プノンペン
 起き抜けに眠気覚ましのシャワーを浴びた。さあ、船上最後の朝だ。今日は朝7時からと少し早めの朝食をとり、8時半にはコチャン村に上陸した。ここでは老若男女問わず、村人みんながシルバーと銅製品を彫刻、製作して出荷している。高床式家屋の1階は熱気にあふれた吹き抜けの工房だ。少し歩くと寺子屋があった。以前は数学教師で、内戦時は海外に出ていたという先生が開く寺子屋には30名位の子供から青年までが集まり一生懸命勉強していた。子供たちのノートを覗き見ると二次関数をやっていた。「難しいか?」と聞くと「難しい、でも日本人には簡単だろう。教えてくれ」とペンを差し出す。学生時代も駄目だった数学を現役を退いて10年以上経った僕にできる訳はない。

 少し歩くとローカル向けフェリー乗り場に到着した。乗って来た船を使わず、あえてローカルフェリーに乗ってトンレサップ川を渡るとは、面白い配慮だ。対岸まで片道5分のフェリーの上では竹の筒に入った赤飯のようなものを売っているおばちゃんや、冷たいコーラを売っている子供達が外国人にも屈託ない笑顔で売りつけに来ていた。対岸に着くと同時にバンに乗車。この旅最後の見所であるカンボジアの古都ウドンへは後10分足らずで到着する。1年前にここを訪れた時には爆撃で半壊した巨大な仏像があったのを覚えている。仏像へたどり着くと仏像はほぼ復元されかかっていた。信仰者には少し悪いが以前の廃れた雰囲気が好きだった僕には少し残念に感じた。少し歩くと、団扇を持った子供たちに囲まれた。通称うちわ屋さんと呼ばれる子供達で、観光後に少しばかりのお小遣いをせびられる。歩くたびに後ろから涼しい風を感じることができた。
 11時を少しまわった頃、トム・テューウ号に戻った。3日間一緒にカンボジアを探検した仲間達と最後の食事をとった。プノンペンに入ったと言う証である日本橋をくぐりぬけ接岸した。みんなが握手をし、抱き合い、別れた。目に涙を浮かべている人もいる。
 昔バックパックひとつで旅をしていた頃を思い出した。いつか見た映画のようだった。こんな旅も良いもんだ。