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「カンボジア クロマートラベルガイドブック」
Vol.8 Jul - Sep 2008

 特集3 カンポンプロック村
−トンレサップ湖浸水域の集落−

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カンポンプロック村
−トンレサップ湖浸水域の集落−
関西大学大学院・横山大樹

 同じ場所に高床式住居を構えながら、一年の約半分を陸地で暮らし、残りの半分を水上で暮らす。それぞれの時期に訪れると、違う村に来たのではないかと錯覚してしまう。
 トンレサップ湖は、カンボジアのほぼ中心に位置し、水域面積が大きく変わることから『伸縮する湖』として知られている。水域面積が最も小さいときで約3000ku(琵琶湖の3倍)、最も大きいときには約10000kuと最小時の3倍以上にも広がる。これほどの規模で水域面積が大きく変わる湖は、世界に類がないという。水域面積が広がるのは、川の上流地域で雪解け水や、雨季の降雨でメコン川が増水し、その大量の水が下流で合流するトンレサップ川を逆流しトンレサップ湖へ流れ込むからである。そのため、雨季と水域面積がひろがる浸水期、乾季と渇水期にはすこしズレが生じている。
 トンレサップ湖のもう一つの特徴が、単位面積あたり世界一とされる漁獲高である。そのため、湖の周辺にはこの湖での漁業を生業とする村が点在する。今回、取り上げるカンポンプロック村は、そんな漁村の一つである。私の知る限り、トンレサップ湖の周辺には、2つのタイプの漁村がある。一つは、舟や筏で住居を水面に浮かせるタイプで、トンレサップ湖の湖岸の移動と共に移動するもの。トンレサップ湖のボートツアーで訪れるプノンクロムの麓にあるチョンクニアス村はこのタイプに相当する。もう一つのタイプは、地面に固定した高床式住居で、水位の上昇に対して床下まで冠水を想定した住居で、水が引いた時には長い柱が乱立した空中高い住居が現れる。カンポンプロック村は、このタイプに相当する。

 カンポンプロック村は、シェムリアップから南東に約22km、ロリュオス川の河口付近の浸水域(渇水期には地上、浸水期には水面となる地域)内に立地し、3,042人が441戸の住居に暮らしている。その8割の人が漁業に従事しているという。なにより、空中高い高床式住居が向かい合い2列で約1.3kmも南北一直線に立ち並ぶ集落の姿が際立って大変美しい。その中心に水位が上昇しても水に浸からない高台に寺院が配されている。この冠水しない高台に配されていることが、寺院の重要性を物語っている。寺院の南側には小学校、北側に役所が隣接し寺院周辺に公共施設が立地している。住居は、浸水期でも冠水しない高さに床が設定されているため、農村でみられる高床式住居より高いのである。

自然環境に呼吸を合わせて暮らす
 このような厳しい自然環境の変化の中での暮らしは、どのようなものだろうか。住居を通して考察すると、自然環境の変化に対して頑強な住居を作るというのではなく、変化に応じて暮らし方を変え順応するという発想で住居が作られていることに気づかされる。実際、渇水期と浸水期の住居を調べるとカタチが変わっているからである。

 住居は屋根と壁で囲まれた屋内空間の『主室』、その前と後ろに付属した半屋外空間の『前室』と『後室』、渇水期の床下の柱を利用して床が張られた『中間床』で構成されている。住居の中で、部屋として囲まれているのは、女性の寝室と、炊事する場所だけで、それ以外は基本的にカーテンで簡単に仕切るだけである。住居は細かい部屋に区切らず、一つながりの部屋を必要に応じたいろいろな使い方が見られる。例えば、前室なら、ハンモックに揺られてうたた寝をしている光景が目に付くが、私たちが家を訪ねると、小さく丸めていたゴザを広げて接客してくれる場所に使われる。また、網などの漁具を手入れする作業場としても使われている。同じ場所を必要に応じて使いわける、どこか和室にも似た柔軟性がある。

 住居の構造に視点を移すと、骨格となる構造以外は簡単に取替えられる仕組みになっている。トタンの住居こそトタンを住居の構造に釘で打ちつけていて固定されているが、ヤシの壁や屋根は、数年で葺き替えが必要なため、構造の柱や梁に縄で縛っているだけとなっていて簡単に取り外すことができる。これを応用して、主室はトタンで作るが、後室や中間床は取り外せることを前提にヤシ壁で作る。また、床に関しては固定されておらず根太の上に単に置かれているだけで、そのまま外すことが出来る。浸水期は、後室に使われていた床材が、渇水期には床下に運ばれ、中間床に使われている場合もある。取り外せることで、必要な時期に必要な空間を作り出すのである。それぞれの部材が軽く、持ち運べる重さであること、そして、住居だけでなく固定化した家財道具が少ないこともこのような柔軟性のある暮らしを可能にしている。

 この厳しい自然環境に呼吸をあわせた流動的な柔らかさがカンポンプロック村の特徴といえる。その一方で、村全体で俯瞰してみると、一直線に住居が立ち並ぶ姿は明快で力強い。住居の主室や前室の柱と梁の接合部を仕口や釘で固定して作っているが、後室や中間床では縄で縛って、必要に応じて“解いて解体”できる構造となっている。住居自体も強い部分と柔軟な部分からなっているのである。少なくとも100年は続く歴史の中で、試行錯誤を繰り返し築き上げられた、力強さと柔らかさの絶妙なバランス感覚。このバランスこそが美しいカンポンプロック村を創り出したのである。

関西大学建築環境デザイン研究室(江川研究室)では、2004年より継続的に毎年2回、述べ6回(144日間)カンボジアを訪れ、この村に住み込んで調査を行っている。

横山大樹 1981年、大阪生まれ。2004年関西大学工学部建築学科卒業。2006年関西大学院博士課程前期課程修了。現在、関西大学大学院博士課程後期課程に在籍し、カンボジアカンポンプロック村の研究を続けている。

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