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「カンボジア クロマートラベルガイドブック」
Vol.3 Apr - Jun 2007

 特集1 いつか見た映画のような旅
      〜ベンメリア コーケー プレアヴィヒアの旅〜

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いつか見た映画のような旅
〜かつての王道を駆ける
ベンメリア コーケー プレアヴィヒアの旅〜



 栄枯盛衰。かつてアンコール王朝として強大な勢力を誇り、インドシナ半島に君臨したクメール人達が残した大いなる遺産。それら多くは未だ日の目を見ておらずそこに住む人々のみ知っている。今回は彼らの子孫と共に、偉大なる祖先の残した遺産を再発見する旅。利便性からバイクを選び、簡単な目的地のみ決め走り続ける。行く先々で出会う人々から話を聞き、彼らの知る情報を問いながら、共に旅を味わうことにした。


出発 第1日目 午前 シェムリアップ〜ベンメリア
 “ピリリリリー”わざとベッドから離して置いてあった目覚まし時計が騒ぎ始めた。「もう6時か・・・」誰にともなく呟き、嫌がる体を引き起こす。窓からは薄い光が差し込みはじめていた。

 アンコールの子孫である友人と合流し大まかなルートを確認する。シェムリアップからは北北東、タイとの国境にある山岳寺院「プレアヴィヒア」を最終目的地とし、途中「ベンメリア」「コーケー」を経由する。荷物はカメラと二日分の着替えのみ。宿や食事はきっとどうにかなるだろう・・・。
 さあ。出発だ。バイクにまたがり、東のアンコールと呼ばれる「ベンメリア」へと向かう。熱帯のカンボジアといえど早朝の向かい風は肌寒い。背負っていたバッグを風よけ代わりに体の前へ持ち替え速度を上げた。
 椰子とココナッツの木にはさまれた真っ直ぐな緑の道。水牛が水浴びを楽しんでいる。

 一つ目の町を通り過ぎる。色とりどりの衣をまとったアプサラの子孫達に目を奪われ、ふとバイクを止めてしまった。結婚式だ。カンボジアでは雨季明けの宣言と同時に各地で開かれる。ひときわ目立つ衣装を纏った新郎新婦は予期せぬ闖入者にも微笑を向けた。

 大きな道が交差している。少し休憩をとりつつ近くを歩くおじいさんに声を掛ける。「あっちにきれいな寺院がある」言葉を頼りに彼の指が示した方向へと進むと、地雷撤去団体が撤去活動をしていた。テレビで見たことのある探知機を持ち慎重に作業を行っている。“ヴュィーン”という音が大きくなったり小さくなったりするあれだ。近くで休んでいたスタッフに道を尋ねると、「寺院には地雷が残っているかもしれない」と言う。聞かないほうが良かったと思いながら先へと進む。

 茂みの中に寺院を見つけバイクを停めた。砂岩造りの寺院は思ったより大きく、崩壊具合もさほどひどくない。発見した興奮で勇んで中に入ろうとするが、さっき聞いたばかりの“地雷”という言葉が頭を横切る。誰かが踏み拉いた跡を慎重になぞる様に歩いた。
 
 「ベンメリア」へと先を急ぐ。この寺院、日本人には根強い人気を誇っている。人気アニメ“天空の城ラピュタ”のイメージに似ていると口コミで噂が広がったからだ。

 案内役をかってでた遺跡管理人が、慣れた足つきで瓦礫の山を飛び跳ねる様に進む。通常の観光用に足場が組み立てられたルートから外れ、人の入らない“管理人スペシャル”を進む。建物には到る所に植物が絡み付き、巨木が背を伸ばしている。廃墟と化した寺院は広く、崩壊した屋根が行く手を阻む。まるで迷路のようだ。自分がどの方角へ向かっているかさえ分からなくなる。30分程歩くと全体を見渡せる高台に到着した。途中ルートは違っても皆ここに集まるらしく、他の旅行客も一息ついている。少し休み、まだ決まっていない次の目的地に向かうことにした。


1日目 午後 ベンメリア〜クーレン山麓〜コーケー
 寺院前の屋台で冷たいコーヒーを注文する。近くで作業していたおじさんに声をかけ、近くに遺跡があるか尋ねる。こういった質問は屋台のおばちゃんよりも彼らがずっと詳しい。「東に幾つかある」作業の手を止めていた彼に道案内を頼むと、二つ返事で引き受けてくれた。

 車一台がやっと通ることの出来る道の両脇には赤いどくろマークが並んでいる。「ここがそうだ」最初の遺跡に着くと、ここでも地雷撤去作業が行われていた。「3時まで入っては駄目だ」取り付く島も無い返事だ。気を取り直し先に向かう。崩れきった一つ遺跡と、小さなアンコール時代の橋を二つほど通り過ぎ、民家の庭にバイクを停める。

 ハンモックで寝ていた子供に声を掛け、寺院までの近道を尋ねると、案内してくれるという。新メンバーが加わった。人の背の高さほどはある草を掻き分けながら進む。発見した寺院は小型だが状態は悪くない。ジーンズにしがみ付く植物の種子を取り払いながらゆっくりと休む。近くにもう少し大きい寺院があると言う。今来たばかりの道を戻り、少し歩くと、足元には周壁の跡だと思われるラテライトが直線状に並んでいる。長く放棄されていた寺院は、5m前になってやっとそれだと認識できる程に草木を絡ませ、人々の目から姿を隠している。棘を鎧の様に纏い、人々が近づくのを拒んでいる。眠りを妨げる者の来訪を歓迎していないようだった。

 更に進むと三つ目のアンコール時代の石橋が現われた。大きい。さっき見た二つの橋とは全く異なる。おじさんがゆっくりとした動作でタバコに火を付け遠くを見ている。近くに住む人々が雨季の間に溜まった水で体を洗っていた。なんとなく贅沢なお風呂だ。ゆっくりしていると牛がのんびりと喉の渇きを癒しに来た。

 思っていた時間を少しオーバーし、一つ目の寺院に戻ってきた。撤去作業はちょうど終わったらしく、皆いそいそと機材を片付けていた。「人の歩いた跡を歩け。寺院内には入るな」強く念を押され、たどり着いた寺院は要塞の様に赤いどくろに守られていた。

 乾季半ばを過ぎたカンボジアは日が傾くのが早い。まだ4時にもなっていないのに空はオレンジ色に変わってきている。この辺りの探検も終わり、おじさんに礼を告げ先に進むことにした。

 「ベンメリア」から、北に進むと少し大きめの村に到着した。時間をもてあまし眠たそうな目をした青年に声を掛けた。「村に一つ、クーレン山の麓に一つある」。クーレン山はアンコール最初の王が、王朝の始まりを宣言した聖なる山だ。経験からなにか面白いものが出てきそうでどきどきする。

 彼に道案内を頼み山麓へ向かう。道はかなり険しく、車では無理ではないかと思われるほど剥き出しの岩場を駆け登る。両脇にはきのこ型をした巨大な岩が転がっている。今まで見たことの無い光景だ。

 「この岩だ」近くの岩を指差し、少し足早で歩きだした。大きな岩の真ん中が2つに割れ、向き合うように大きな彫刻が並んでいる。岩後ろには神々が並んでいた。岩下に竹の柵がある。何だろうと覗いてみると尼僧が現れ、めったに来ない訪問者に喜捨を求めた。

 夕日がクーレン山に差しかかる。オレンジ色の空に朱色が入り、紫の空が覆ってきた。ここから先は携帯電話の電波も届かない地域だ。砂利の混じった道を一路北へ向かった。

 「今日は満室だ」。無碍の無い返事が返ってきた。困っている僕らを見かねたスタッフが、従業員用の部屋でも良いかと聞く。もちろんだ。赤土塗れの顔をさっと洗い流し、準備された茣蓙に寝転んだのも束の間、気がつくと鶏の鳴く時間になっていた。


2日目 午前 コーケー
 外からなにやら楽しげな声が聞こえる。白と青の制服に身を包んだ小学生が歩いている。「ハロー」無邪気な挨拶だ。学校に来ないかと聞く。一緒に歩いて登校する事にした。到着した学校にはどことなくのんびりした雰囲気が漂っている。広々とした校庭には大きな豚がのそのそ歩き、片隅には屋台が並び、お腹をすかした子供達が列をなしている。授業開始時間は過ぎているはずだが、みんな校庭で遊んでいる。先生も一緒だ。当たり前のようにこんな毎日が続いているのだろう。

 空気が暖かくなってきた。急いで遺跡群へと向かう。遺跡近くに住んでいるおじさんに案内を頼むと、にかっと笑い、一緒に探索することになった。

 赤土の道路を中心に左右に見える寺院群は個性的だ。芽を出したばかりのワラビの様な破風を持つ遺跡、他で見ることの無い大きなリンガ、異彩を放ちながら聳え立つ巨大なピラミッド型寺院。高さが35メートルある寺院正面には急な階段が真っ直ぐに空へと向かっていた。


2日目 午後 コーケー〜プレアヴィヒア
 今回の最終目的地「プレアヴィヒア(タイ名カオプラヴィハーン)」へ出発だ。道のりは長い、出来る限りスピードをあげる。見つけた村々で遺跡を尋ねる。「遺跡はないよ」半分落胆、半分喜びが心の中を舞う。

 思ったより早い。3時間ほどでプレアヴィヒアの山麓に到着した。山頂へは45度はあろうかと思われる急坂を登る。意外と登れるものだ、20分程走ると遺跡にたどり着いた。

 カンボジア国旗が風にはためいている。地上から天界への架け橋とされる巨大なナーガは地面こそ這ってはいないがアンコールワットに見るような区切られた台座がある訳ではない。“I HAVE PRIDE TO BE BORN AS KHMER(カンボジアに生まれた事を誇りに思う)”。長い間対立してきた、タイ人に向けて書かれたのだろう、参道に大きな看板が立っている。
もう観光客も来ない時間だ。屋台の売り子が商品をまとめて、家路につこうとしている。

 山頂からカンボジアを望む。のっぺりと平べったい大地だ。ずっと遠くまで見渡す事が出来る。野焼きの煙がところどころ立ち上がり風に流されている。上空に吹き上がってくる風がふわっとして気持ち良い。ゆっくりしているとオレンジから赤に変化した夕日が沈み始め、薄い雲にもぐりこむと同時に漆黒の空が赤い空を押し込んでいるように見えた。

 「空いてるよ」ぶっきらぼうだが、嬉しい答えだ。桶に溜めている水を柄杓ですくい上げ赤土で汚れた体にふりかける。流れ落ちる水が茶色く滴る。冷たい水に身が引き締まった。
 食事をとりに村に一軒しかない食堂へと向かう。地元の人々でいっぱいだが、食事をとっている者はほとんどいない。近所の人々が娯楽を求めて食堂のテレビに群がっているのだ。タイのドラマに一喜一憂し笑い声が店内に響く。めったに来ない異人の訪問に皆が席を譲ってくれた。温まる。きっと昔の日本も同じような感じだったんだろう。

3日目 午前 プレアヴィヒア〜タイ国境
 蚊帳に守られ朝を迎えた。周りはまだ暗く肌寒い。
宿から寺院へは徒歩1分だが、寺院の長さは800mある。勾配のある参道を崖に向かって登る。さっきまでの肌寒さが嘘の様に暑くなり、体中から汗が噴き出し始めた。ぼんやりと寺院に座り、失われた王国から昇る朝日を見る。今から始まる赤土まみれの現実を忘れさせた。

 国境を越える。カンボジアからタイへ抜けると同時にアスファルトで舗装された道路へと切り替わる。迷彩服に身を包んだ兵士が、厳しい顔で朝礼をしていた。2005年6月に国境封鎖が解除されたばかりだ。少し歩くとタイ側にもアンコール時代の遺跡が残っている。カンボジアを見おろす崖には神々が彫刻され、没落する王国をずっと見てきたのだ。

 荷物をまとめ、最後にもう一度寺院を訪問した。参道に並ぶ物売りたちが声を掛けて来る。絵葉書や飲み物はもちろん、この寺院が描かれた古い紙幣や、寺院で掘り出されたという青銅製の彫像までも売っていた。

 第4棟の中央詞堂に辿り着くと、きらびやかな飾りの中にガネーシャの像がぽつんと祀られていた。神聖な空間の中、尼僧が一生懸命お祈りをしていた。崖上で吹き上げる風を感じながら失われた王国をぼんやり見ているとお坊さんがやって来た。楽しそうだ。遠くから来たのだろう、皆で記念撮影をして帰っていった。

3日目 午後 プレアヴィヒア〜シェムリアップ
 さあ、最後の仕上げだ。バイクも自分もお腹いっぱいにし、シェムリアップへと向かう。
 さっきまでの青い空が、白に変わり、黄色に変わって木々の隙間から差し込んでくる。その光の中、乗り合いタクシーが土煙を上げながら猛スピードで駆け抜けていった。


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