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B列車で行こう
(Take the B Train)
「A列車で行こう」
(Take the A
Train)というジャズのスタンダード・ナンバーをご存知だろうか?たぶん一度は耳にしたことがあるはずだ。「A列車」とは、ニューヨーク市地下鉄の8番街急行線のことで、途中の125丁目には黒人音楽の聖地アポロ・シアターがあり、「ハーレムに行こう」という意味が込められている。もっとも、最近では同名の鉄道シミュレーションゲームがあり、若い人にはそちらのほうがなじみ深いかも。
さて、B列車の話。ここバッタンバンには「ベッド・トレイン」または「バンブー・トレイン」(あるいはノリー)と呼ばれる乗り物がある。頭文字をとって「B列車」と呼ぶことにしよう。小さなディーゼルエンジンを後ろに据え、ベッドに似た竹で編んだ板(畳4畳を横に並べたほどの大きさ)を滑車の上に置き、鉄道のレール上を移動するシンプルかつクリエイティブな乗り物である。
特に雨季、カンボジアの道路は寸断される。鉄道沿線の村から市場へ収穫物を運ぶために知恵者が考案したのだろう。80年代半ばに手漕ぎ式のものが出現し、80年代後半にエンジンが付けられ、90年代になってバッタンバン〜プノンペン、プノンペン〜シアヌークビルを往来し、現在に至った模様。だから、その気になれば、現在週1便しか運行していない鉄道に替えて、バッタンバン〜プノンペンをこのB列車で移動することも可能なはずだ。たぶん、気が遠くなるほど乗り換え、うんざりするほど時間がかかると思うが。
売るほどの時間を持っていない我々は、とりあえずエスカーション(小旅行)でその醍醐味を味わおう。サンカー川東岸を南下し、パゴダの手前を左折すると、乗り場がある。通常は市内と反対方向に行くが、交渉しだいでバッタンバンの鉄道駅に戻ることも可能だ。通常ルートを選び、往復一人$3で乗り込んだ。屋根はなく、前後に手すりが付いている。次の乗り場まで約8キロ、10数分で疾走する。平均時速約30キロだが、孫悟空の金団雲にも似て遮るもののない移動物体はその倍ほどのスピード感がある。ゴザに座り手すりにつかまっていないと、振り落とされそうだ。雨の恵みを受けて青々と茂った樹木の隙間を縫い、田園や牧歌的な風景がパノラマのように行き交うのは、目に快い。線路の継ぎ目で受けるわずかなショックにも慣れたころ、降り場に到着する。ここからアンコール遺跡のあるワット・バナンまでモトドップで約30分、ワット・バナンまでモトドップかトゥクトゥクで行き、帰路を「B列車」にする手もある。訳知りの外国人にとっては、レンタルバイクとともに乗り込み、近郊の名所を巡る、というのが密かなブームだ。